食品には、人間が生きていくために最も基本的な「エネルギーを供給する」という機能があります。
人はエネルギーと水分があれば生命を維持できます。しかし、食品の機能はそれだけではありません。人に「美味しい」という感覚を与えることも食品の機能の一つです。
また、食品に含まれる個々の成分が人体に与える影響も注目すべき機能です。例えば、大豆食品中のイソフラボンには抗がん作用や骨粗鬆症の抑制作用があり、赤ワインやチョコレートに含まれるポリフェノールには抗酸化作用があります。
よって食品の機能を知ることは、食生活の楽しみを増し、健康を増進または病気を抑制、すなわち生活の質を向上することに役立ちます。
食品の定義
ヒトが口から摂取するものは、食品衛生法及び医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下:薬機法)により、必ず食品もしくは医薬品(医薬部外品含む)に分類されます。
食品衛生法において、「食品とは、全ての飲食物をいう。ただし、薬機法に規定する医薬品、医薬部外品及び再生医療等製品は、これを含まない。」と定義されています。又、食品には「1種類以上の栄養素を含んでいる」、「有害物を含まない」、「食べるのに好ましい嗜好特性を持っている」こと、という3つの条件が示されています。
上記のように、医薬品の取り扱いは薬機法によって定められており、医薬品と食品には明確な線引きがされています。この線引きによって、食品には、例外(保健機能食品のこと。詳しくは後の章で記載しています。)を除いて「たとえ事実であっても、医薬品的な効能効果を、標ぼうすることはできない(薬事法規定)」という縛りが生まれます。
ですので、食品とするものにむやみやたらと癌を縮小する効果がある、などと医学的効能を示す書き方をすると薬機法により処罰の対象となります。
食品の基本となる3つの機能(はたらき)
食品には大きく分けて3つの機能があり、これを食品の三大機能といいます。
①一次機能:栄養機能
三大機能の中で一番基本的な機能で、人の体を作り、活動のエネルギー源、栄養素供給源となります。たんぱく質・糖質・脂質・ミネラル・ビタミンの五大栄養素がこれにあたります。
②二次機能…感覚・嗜好機能
食品のおいしさ(嗜好)に関与する感覚機能です。甘味、酸味、塩味、苦味、旨味、辛味、渋味などの味覚のほか、香り、色、歯ごたえ、など感覚に働きかける機能です。腐敗や異臭、変色、不味さ、異物などを見分けるうえでも、重要な役割を果たします。
③三次機能…生体調節機能
食品中の成分が体の色々なシステムを調節する機能のことで、健康の維持や向上、生活習慣病の予防や回復に関係し、大きく6つに整理されています。
・循環系:血圧をコントロールする
・神経系:ストレスを軽減する
・細胞分化増殖系:成長を促進させる
・生体防御免疫系:免疫を強化する、ガン細胞の発現を抑える
・内分泌系:ホルモンの分泌を助ける
・消化系(外分泌系):消化酵素の分泌を調節する
Memo
三大機能で何が最も大切かは、住んでいる地域の特性や自らが置かれている状況に左右されます。
貧困に悩む人や地域では一次機能(まずは栄養を摂取すること)が最も重要です。
一方で、食に恵まれた人や地域では、食べたいものをいつでも食べることができる代わりに健康への意識が高まり、高齢化も伴って、生活習慣病に悩む人が多くなりました。日本では特にその傾向が高く、そのため三次機能(食品の個々の成分が体に与える影響)に注目が集まりました。
このような三次機能への注目に比例して、保健機能食品制度が制定され、特定保健用食品(トクホ)など三次機能を強化する食品が多く販売されるようになっています。(特定保健用食品などについては後述の三次機能の解説で詳しく説明しています。)
栄養素の種類と働き(一次機能)
〇栄養素の種類 五大栄養素と三大栄養素
栄養素には、たんぱく質や糖質、脂質、ビタミン、ミネラルといったいろいろな種類があります。
栄養素のうち、たんぱく質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラル(無機質)を「五大栄養素」、たんぱく質、糖質、脂質を「三大栄養素」といいます。
また、たんぱく質、脂質は、ミネラル(無機質)とともに生体構成成分としての役割があり、これらは常時体内に取り入れる必要があります。
五大栄養素には含まれませんが、体の60%を占める水分、そして不要なものの排泄に関与する食物繊維も大切な栄養です。
そのため五大栄養素に食物繊維を含めて六大栄養素と呼ぶこともあります。
〇栄養素の体内での働き
五大栄養素の体内での働きは、大きく分けると次の3つです。
◆エネルギー源となる(熱量素)
糖質、脂質、たんぱく質
◆体を作る(構成素)
臓器、血液を作る:たんぱく質
体脂肪、生体膜を作る:脂質
骨組織を作る:ミネラル
◆体の調子を整える(調節系)
ビタミン、ミネラル、たんぱく質
〇必須栄養素
必須栄養素とは、人の体内で合成できないか、合成できても必要な量には足りないため、食事でとらなければならないものをいいます。
たんぱく質の素となる必須アミノ酸、脂質の素となる必須脂肪酸、ビタミン、ミネラル(無機質)がそれにあたります(水を必須栄養素にする国もあります)。
普段の食事ではこれら必須栄養素が十分含まれる食品を摂取することが大切です。とはいえ、実際の食事では必須栄養素のみを摂取する、というのはバランスが悪く、他の弊害が出る可能性があります。偏りなく、バランス良く、エネルギー、五大栄養素、必須栄養素をとることが大切になります。
香味成分(二次機能)
〇おいしさの評価を決める香味成分(においと味)
食物を食べると、「おいしい」「まずい」などの嗜好を感じます。これは、食べたときの味やにおいの刺激が口腔や鼻などの感覚受容器で受け取られ、神経を通って脳で評価された結果です。
評価結果が良ければ、脳は食欲を増進させ、さらに、唾液・胃液・膵液の分泌を刺激し、消化吸収活動を活発にします。
女性に多い「甘いものは別腹」という感覚も、視覚的に美味しそうなスイーツを確認し、そのにおいなどを脳が感知、既に胃にある内容物を下に寄せて胃に空洞を作るために起こる感覚だと言われています。
おいしさを評価するものには、視覚による形状などの外観、色、つや、嗅覚による香り、味覚による味、かたさ、歯ざわり、のどごしなどがあります。
◆食品のにおい
食品中にはいくつもの香臭気物質が含まれていて、そのバランスと相互作用によってその食品特有のにおいを作り出しています。においは良い場合だけではなく、食品の腐敗などを感知する感覚としても重要です。香臭気物質は揮発性があり、ごく微量で感知できるものもあります。化学的には、アルコール類、エステル類、アルデヒド類、酸類、アミン類、メルカプタン類があります。
◆食品の味
味は、舌の表面のざらざらした突起上にある味蕾(みらい)で感知します。食品にはそれぞれに固有の味がありますが、元をたどると基本的には甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の5種類しかありません。
ただし、味蕾で感じる味覚に分類されないものとして、皮膚感覚(痛覚など)で感じる辛味・渋味・えぐ味があります。
〇5種の基本味
甘味:糖類(ショ糖、ブドウ糖、果糖など)。自然の糖類と人工甘味料では甘味の質が違う。
塩味:食塩(塩化ナトリウム)が水に溶けて解離する水素イオンを感じている。
酸味:酢酸、リンゴ酸、クエン酸などが水に溶けて解離する水素イオンを感じている。
苦味:テオブロミン、カフェインなど。
うま味:日本人により発見された特有の風味。昆布(グルタミン酸)、鰹節(イノシン酸)、椎茸(グアニル酸)など。
体調を整える機能(三次機能)
〇生体調節機能の活用、制度整備
食品には、循環系、神経系、免疫系などの体内の色々な機能を調節して体調を整えたり、病気を予防する生体機能調節成分が、微量であっても含まれています。近年ではこの成分に着目し、健康志向も相まって生体機能調節成分を効果的に摂れる機能性食品という概念が取り入れられるようになりました。
しかし、機能性食品とはどのようなものか、健康食品同様、法律上の明確な定義はありませんでした。
定義がないゆえに機能を表示することは規制されましたが、健康志向が広がり、消費者から食品に求められる機能が多様化、複雑化した中で、成分が明確でないもの、保健効果が証明されていないもの、効果があまり期待できない商品が開発・販売されるようになり、健康危害や苦情が報告されるようになりました。
そこで消費者に食品に関する正確な情報を提供し、正しい情報に基づく選択肢の増加を目的に、1991年に保健機能食品制度が設けられました。
これは、特定の保健の目的が期待できる(健康の維持及び増進に役立つ)食品の場合にはその機能について、また、国の定めた栄養成分については、一定の基準を満たす場合にその栄養成分の機能を表示することができる制度です。
(出典:厚生労働省「健康食品」)
制度の制定当初は、健康食品やサプリメントの内、国が認定したものが特定保健用食品又は栄養機能食品とされ、これに認定された食品のみが、「おなかの調子を整えます」「脂肪の吸収をおだやかにします」などの機能を宣伝又は表示できることができました。
しかし、食品がこれらに認定されるまでには膨大な時間と費用がかかり、認定されていない健康食品が世の中に溢れかえることになりました。
そこで、消費者がより明確に自主的に食品を選べるように2015年に機能性表示食品が追加されました。
そのため2015年以降は、保健機能食品は、国の許可等の必要性や食品の目的、機能等の違いにより、「特定保健用食品」、「栄養機能食品」、「機能性表示食品」の 3 つに分けられるようになりました。
(画像引用:厚生労働省「健康食品」)
〇健康食品の分類
①特定保健用食品(トクホ)
特定の保健の目的で摂取する食品で、その摂取により健康の維持・増進に役立つ保健効果がが人による臨床試験で確かめられたものです。
特定保健用食品として販売するためには、製品ごとに食品の有効性や安全性、品質などの科学的根拠を示して申請し、国の審査を通して承認を受ける必要があります。製品には消費者庁許可マーク(トクホマーク)が表示されます。
②栄養機能食品
身体の健全な成長、発達、健康の維持に必要な栄養成分の補給・補完を目的とし、高齢化、食生活の乱れなどで通常の食生活が難しく、1日に必要な栄養成分を摂れない場合に、その補給・補完のための食品です。
すでに科学的根拠が確認された国の定めた1日当たりの摂取目安量の栄養成分を含む食品であれば、栄養機能食品として販売するのに、国などへの許可申請や届出の必要はなく、事業者の責任において製造・販売できます。
許可マークはありませんが、国が定めた食品表示基準に従った栄養成分表示が必要です。
2020年10月時点でn-3系脂肪酸、ビタミン13種(ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、葉酸)ミネラル6種(亜鉛、カリウム、カルシウム、鉄、銅、マグネシウム)について認可が受けられます。
栄養(特にビタミンやミネラル)の補給のためのサプリメントで認定されていることが多いです。
ただし、特定保健用食品のような個別の審査が行われていないことから、商品には栄養成分の機能だけでなく、摂取する上での注意事項(*)や消費者庁長官の個別の審査を受けたものではない旨なども表示することが義務付けられています。
*摂取する上での注意事項
「多量摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません」
「一度に多量にとりすぎると、おなかがゆるくなることがあります。一日の摂取量を守ってください」といった注意書きのことです。
③機能性表示食品
事業者の責任において、科学的根拠に基づいた特定の保健の目的が期待できるという機能性が表示された食品です。国の定めたルールに基づき、事業者が安全性や機能性に関する科学的根拠などの必要な情報を、販売前に消費者庁へ届け出れば機能性を表示できます。特定保健用食品とは異なり、消費者庁の個別の審査を受けた食品ではありません。
2015年に追加された食品分類です。事業者自らの責任において、科学的根拠に基づいた機能性を証明し、そのデータを国に提出して認可された食品です。認可されていない健康食品よりも信頼はできますが、特定保健用食品とは異なり、消費者庁の個別の審査を受けた食品ではなく、あくまで企業の出したデータにより食品表示基準等に基づいて機能表示が認可されたものです。
生鮮食品を含むほとんどの食品が対象になります。
④いわゆる「健康食品(健康補助食品)」
2020年現在、健康食品、健康補助食品を定めた定義はありません。そのため一般的には、保健効果が期待されると考えられる食品のうち、保健機能食品以外のものととらえられています。栄養機能食品以外のサプリメントもその他の健康食品に分類されます。
Memo
乱立する健康食品からどの商品を選ぶべきか、その一助となるよう機能性表示食品というカテゴリーが作られました。
薬機法により、保健機能食品を除いて医薬品以外への効能の表示は禁止されています。つまり、保健機能食品以外の食品へ効能を表示することは出来ないため、効能の表示があれば一定の信頼が出来る商品だということが判別できます。
ただし、問題も出てきています。トクホの審査段階で成分の安全性、効果・効能に疑問が指摘された商品が機能性表示食品に認定されている場合があるということです。
国もこの問題に取り組んではいますが、解決には至っていません。消費者としてはトクホと機能性表示食品の差をしっかり認識して商品を選ぶ必要があるということになります。